バブル期が終わると、塾にも変化の兆しが現れました。大教室にたくさんの生徒をつめこんで授業をするスタイルの塾が敬遠されはじめ、ひとりひとりの面倒見や、きめの細かい指導といったことが重視されるようになったのです。そんななか、従来の集団指導スタイルをとる塾にかわって生徒数を伸ばしてきたのが、個別指導塾です。
もちろん、以前から個別指導コースを設けている塾はありました(私自身、学生時代アルバイトした個人塾では個別指導を主に担当していました)が、個別指導だけの塾というのは珍しかったのです。
「どうして個別指導だけで、ちゃんと経営が成り立つんだろう? 講師の給料って出るんだろうか?」
そんな疑問を最初はいだいたものですが、それは別の項でお話しすることにして、今回は私が実際に見た「トンデモ個別指導塾」についてご紹介しましょう。
個別指導塾が首都圏でその勢力を広げつつあった頃、私の居住する地方都市でも、ちらほらとその看板を見かけるようになってきました。今でこそ大手個別指導塾の直轄教室が多くありますが、当時は従来の地元塾経営者が見よう見まねで個別指導システムを採り入れ始めたというところです。
その頃、私が勤務していた塾(中学受験専門の進学塾)では、講師研修の一環で他塾の授業やシステムを見学にいくということをよくやっていました。その研修先のひとつに、話題の個別指導塾Kがあったのです。
興味津々で訪れたそのK塾で見聞したことは、いまでもはっきり覚えています。やり手とおぼしき塾長と挨拶を交わした後、早速授業風景を拝見させていただきました。
小さめの教室の前方には、講師用の机がひとつ置かれ、それと対置するように10個くらいの生徒机(学校でも採用されているものです)が並んでいます。黒板もありますから、個別指導塾といっても、私たち集団指導の塾の教室となんらかわりはありません。アルバイト学生講師が前方の机に座って、何冊かのテキストを眺めています。驚くべきはここからでした。
生徒たちが少しずつやってきてそれぞれの机に座ると、特に講師の指示をあおぐでもなくおもむろにカバンからテキストを取り出し、問題を解き始めるのです。人数にして10名くらいでしょうか、講師は依然として、教師机から動きません。しばらく経つと、どうやら問題を解き終わったらしい生徒たちが、テキストをもって講師のところへ並び始めました。
そう、なんとこのK塾は、テキストの答え合わせ(とちょっとした解説)だけを行う塾だったのです。これでは「個別指導塾」ではなくて「自習塾」ではないかと、苦笑いしながら帰りました。いま、このK塾はもちろんありません。
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