現代の子どもたちは一様に忙しく、それは中高生に限ったことではありません。部活動のない小学生も、習い事と塾のかけもちは普通です。
今回はとりわけ専門的にバレエの道を志しながらも、果敢に中学受験にチャレンジしたMさんの話をしてみましょう。習い事と塾とをうまく両立させるには、本人の努力だけではなく、ご家庭と塾の細やかな連携が必要であるという事例のひとつとしてお聞きください。
小柄で体力がないものの、幼少の頃からバレエに取り組んできたMさんは、中高時代を高校受験に阻まれることなくバレエの道に専心できる環境を求めて、中高一貫校を目指していました。土日を含む、週に3~4日に及ぶレッスンは、車で一時間以上かかる別の都市にまで出かけてのことだったようです。
そんな状況で、彼女の中学受験学習は始まったのです。当然、塾の課題や復習にあてる時間はほとんどありません。それどころか、体調を崩しては、肝心の授業すら欠席するような日々でした。
「これ以上、無理はさせたくない」
お母様からのご相談も一度や二度ではありません。Mさん自身が「もうやめる」といって、部屋に閉じこもったこともありました。私たち講師も、Mさんがバレエ優先であること、そのためにけっして無理させないことをお互いに確認しあいました。
「塾の課題はとりあえずやらなくてもいいので、授業にはできるだけ参加させてください」
そんな提案をしたのも塾側からで、お母様は「そんなことで大丈夫ですか?」と半信半疑です。大丈夫か大丈夫でないかと言われれば、学習量の絶対的な不足と不利は否めません。それでも通常の形を押しつけては、いずれ無理がたたって受験自体を断念することになるから、と何度も話を重ねて納得していただきました。
いざ実行に移してみると、今度はMさん自身がそれを気に病むようになります。特別扱いされるのが嫌だというのです。確かにひとりだけ課題を免除される立場になってみれば、居心地は決してよくないでしょうが、すべては彼女のためです。私たちは、クラス全体にそれとなく彼女の状況を知らしめるようにしました。
そんな形で、良い結果こそ残せないものの、なんとか6年生の後半まで彼女はがんばって塾に来てくれました。お母様の方から、日々の体調やバレエのレッスン予定などを逐一聞き取ってのことです。
「今日はなんか疲れているみたいです」
という話を聞けば、必ず講師のひとりが声をかけるようにしました。
受験まで残りわずかとなった11月末だったでしょうか。大きな発表会を終えた翌日のことでした。彼女が母親とともに塾にやってきました。
「いまから2か月、バレエはお休みして、受験に専念します。これまでずっとありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
そういって、小柄や彼女はぴょこんと頭を下げたのです。
結果は第一志望には少し届きませんでしたが、Mさんもお母様も晴れ晴れとした表情で挨拶に来られました。
「これで毎日バレエができる!」
そういって笑った彼女の顔を見ながら、よかったなあ…そう思ったものです。
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